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みんないってしまう 山本文緒

物語

山本文緒さん死去のニュースが目に入った。最初に思い出したのは昔好きだった女の子に紹介された「眠れるラプンツェル」という長編だった。当時の僕はこの小説そのものより、彼女が僕にこの小説を紹介した理由が気になってしまい、やがて疎遠になり、数年後に結婚したことを人づてに知ることになった。山本文緒さんの小説はその後も何冊か読み、次第に過去の記憶の沼の一部となった。

ただ一つだけ心の片隅に残り続けた短編があった。読んでから何年たっても、ふとした瞬間、記憶の沼から浮かびあがり、僕はその短編の最後の一節を暗唱してしまいたくなる。

一つ失くすと、ひとつ貰える。そうやってまた毎日は回っていく。幸福も絶望も失っていき、やがて失くしたことすら忘れていく。ただ流されていく。思いもよらない美しい岸辺まで。

みんないってしまう 山本文緒

ご冥福をお祈りいたします。あなたの美しい物語の一節は今も僕の中に失われず残り続けています。

ただ流されていく。思いもよらない美しい岸辺まで。

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